技術コラム第18回:東日本大震災アーカイブ
「東日本大震災アーカイブ」でビジュアライゼーション部門最優秀賞を受賞された渡邉英徳さんから、メッセージをいただきました。
■多元的デジタルアーカイブズ・シリーズ
私たちはこれまでに、散逸していく歴史資料を収集し、デジタル・アース上の仮想空間に集積して公開する「多元的デジタルアーカイブズ」を構築してきました。これらの目的は、非公開資料をオープンデータ化し、資料間の時空間的な関連性を提示することによって、事象についての多面的な理解を促すことです。
第一作「ツバル・ビジュアライゼーション・プロジェクト」の制作は、ツバルの写真家、遠藤秀一氏との出会いがきっかけでした。さらに長崎出身の被爆三世、鳥巣智行さん・大瀬良亮さんからのオファーで「ナガサキ・アーカイブ」が制作されました。その後「ヒロシマ・アーカイブ」「沖縄平和学習アーカイブ」と、一連のアーカイブズ・シリーズが制作されてきました。
■記憶のコミュニティ
デジタル技術だけではアーカイブズを構築できませんでした。資料の利用については、収蔵施設の許可を受けなければなりません。証言については、新規にインタビューを行なうとともに、ウェブ公開許諾を得る必要があります。何よりも、制作活動を進めるための大前提として、地元の理解を得なければなりませんでした。
そのために、高齢の証言者と学生・生徒たちが手を取り合いながら記録保存活動を進める「記憶のコミュニティ」が形成されていきました。この「記憶のコミュニティ」は、過去のできごとを語り継ぐ人々を世代を越えて繋ぎながら、組織・施設の裡に閉ざされていた資料をオープンデータ化し、世界に向けて開くはたらきを担っています。
■東日本大震災後の活動と今後の展望
2011年3月11日の東日本大震災発生後、私たちは応急的な支援コンテンツを多数リリースしました。これらのコンテンツを制作したクリエイターのコミュニティはオンラインで形成されました。LODチャレンジにてビジュアライゼーション部門最優秀賞を受賞した「東日本大震災アーカイブ」、そして「震災ビッグデータの可視化コンテンツ」も、ソーシャルメディア上のつながりが育んだものです。
ナガサキ・ヒロシマをはじめとする戦史のアーカイブズ・シリーズは、対面のコミュニケーションをベースとして構築されたものでした。それに対して、震災関連のプロジェクトにおけるオンラインのつながりは、私たちの時代に起きた災害についての活動ならではの、あらたな「記憶のコミュニティ」の在り方と言えます。
アーカイブズ・シリーズの構築において形成された「記憶のコミュニティ」は、社会的な柵を越えて資料をオープンデータ化し、未来に向かって継承するはたらきを持つと考えられます。しかし、そのちからが存分に発揮されるための要件ははっきりしていません。これを顕らかにし、未来の社会に向けて提案していくことが、筆者の次の仕事です。
首都大学東京 渡邉英徳